地中へ沈みゆく穴の薬師
どんな伝承か
熊谷市江南地域の穴の薬師について、『新編武蔵風土記稿』は真光寺の薬師堂の条でこう記す。堂に本尊は置かれていない。像を土の中に安置すると自然に地中へ沈み、掘り出してもいつの間にかまた沈んでしまう。仏の心は堂を嫌うのだろうと考えて掘るのをやめ、今では七尺ほども地下にあるのだろうという。編者が訪ねると堂の中に薬師の姿はなく、土地の人が穴薬師と呼ぶのは、堂のやや北にまつられた寛政九年の銘がある薬師の石仏で、その前の絵馬堂には絵馬が上がっていた。
原典より
相伝ふ此像土中に安置するに、おのづから地中に没す。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 中(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 中(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成——分類と解説 中』は、韮塚一三郎が編んだ埼玉県の伝説集の中巻で、上中下三巻のうち歴史伝説を収める。地名・屋敷・家系・聖地・城や堤や橋・神仏・神体と宝物・偉業・事件と紛争の九章に分け、県内各地の伝説を『新篇武蔵風土記稿』などの文献と土地の人からの聞き取りによって集めている。一話ごとに所在地と出典または資料提供者を記し、同じ類型の話をまとめた後に柳田国男らの説を引く〈解説〉を置く。