伊良部島・登佐の妻と神谷の徳
どんな伝承か
伊良部の島の漁夫、登佐という者の話である。登佐には艶やかな妻があった。ある時、干瀬に出たこの男が岩の穴に手を差し入れて蛸を捕ろうとすると、その手がどうしても抜けないうちに潮が大いに満ちて来た。独りで悲しんでいるところへ、神谷の仁屋徳という者が通りかかり、命を救う礼にお前の女房を譲ってくれと言う。死ぬよりはましと承諾して戻り妻に話すと、妻は一笑して、約束なれば是非もなし、吉日を選んで婚礼の用意をせよと言った。数月の後、妻は徳を招き、二人が夫婦になったという歌を島々に流行らせ、約束も破らず男も棄てさせず、登佐とは元の夫婦でいてはどうかと説いた。徳も感心して従い、ユンタばかりが永く残ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第1巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第1巻』は、柳田国男の著作を集めた著作集の一巻である。椰子の実の漂着から日本人の渡来と稲作を海の道に求める論考と、海神宮考・みろくの船・根の國の話・寶貝のこと・稻の産屋などの諸篇、大正期の南島旅行に基づく『海南小記』、昭和二十六年八月の自序をもつ『島の人生』を収める。いずれも海と島を舞台に、ニライカナイや宝貝、漂着や島の復興をめぐる民俗と歴史を論じている。