捕手をやり過ごして消えた味泥の長次郎
どんな伝承か
長次郎の被害が多くなると、代官所からか飾磨県からか、捕縛の捕手が差し向けられた。暖かい朝日が松原に射す道を、二十人ばかりの捕手が有名な大賊を捕らえに行くので足取りも用心深く進んでいく。向こうから一人の僧侶が歩いて来たので、頭領が長次郎の動静を尋ねると、僧は左の手首の数珠をかすかに鳴らしながら「今来る道で、悪いことでもして帰ったらしいところを見かけた、恐ろしい者だからよほど用心しないと捕り逃がす」と言い、静かに立ち去った。捕手は村役人に案内させて長次郎の家を囲んだが誰もおらず、村中を探しても見つからない。長次郎はその日限り村から姿を消し、二度と味泥へは帰らなかった。
原典より
捕手は驚いて村中を片端から探したがたうとう見つからなかった。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。