伊良湖岬で知ったハマバウの香り
どんな伝承か
浜をはう植物のうち、蔓荊は葉の表が平らでなめらかで、枝に花を支える力があるため、砂に埋もれずに長く生き残ってきた。著者がこの花を初めて知ったのは三十年前、三河の伊良湖岬でのことだった。千鳥のとりわけ多い砂浜で、東南の大洋に広々と面しているため夕暮れがことに静かだった。そこへかすかな風に乗ってほのかな香りを送ってくるのが蔓荊で、土地ではハマバウと呼んでいた。ときには一丈あまりも浜をはい、砂丘の上から見下ろすと砂に描いた絵のようだったという。
原典より
三十年前に自分が此花を始めて知ったのは、參州の伊良湖岬であつた。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。