還俗僧の背後に写った亡き情婦
どんな伝承か
三河の福江町の観音寺という小さな寺に、中根智泉という僧がいた。明治の中ごろに二度還俗し、その俗人だったころのこと。ある日茶店で休むと番茶が二つ出され、別の日に小旅行先の宿へ着くと夕食の膳が二人分運ばれてきた。翌朝も二人分だったので、智泉は怒って一人分しか払わないと言い張ったが、宿の主人と女中はあなたの後ろに若い女が座っていると言う。呼ばれた巡査にも女が見えたが、智泉には見えない。らちが明かず写真師に座敷を撮らせると、背後に女が写っていた。それは死んだかつての情婦で、智泉は懺悔した。この話は広まり、以後仏事で民家に呼ばれると必ず二人分の膳が出るようになったという。
原典より
智泉は馬鹿を言ふな、俺に連れはないと言ふと、亭主と女中とが口を揃へて、現に貴君の背後に一人の若い女が坐つてゐられるではないかと言ふ。—— 心霊不滅(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊不滅(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1940年(昭和15年))
『心霊不滅』は、岡田建文が著し、昭和十五年に大阪の国民書院が発行した心霊研究書である。人の心霊は肉体の死後も存続するという立場から、神道の神霊の垂示を引きつつ、心霊の本質と「化精」、遠感と魂の遊離、生霊、二重体、交霊術と霊媒、霊感筆記、幽霊写真などの物理現象、幽霊の出現を論じる。序説と七章からなり、第三・四・五・七章に「例一」「例二」と番号を付けた事例を並べ、今昔物語の説話、江戸から昭和の国内の見聞、欧米の報告を挙げる。