庚申堂の隅に積まれた女の髪
どんな伝承か
武蔵関の庚申堂で著者がもっとも心を打たれたのは、堂の中の光景であった。絵馬や千社札、武運長久を祈る巡拝の紙片、繭や松笠を糸に通して環にしたものなどはどこにでもあるが、堂の一隅に何やら真っ黒なかたまりが重なっている。じっと覗いてみると、それはすべて髪の毛だった。女の数にすれば十人より下ることはなく、長く切って垂らしたものが多い。誰が納めているのかは、誰に尋ねるまでもなく著者にはすぐ分かったという。戦時の若い女たちの思い詰めた願い事まで、この庚申は聴き届けようとしているのである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第3巻(柳田国男・定本柳田国男集)
柳田国男編『定本柳田国男集 第3巻』を全158話・伝説(1見出し=1話)単位で収録(緒言・序・名義・解説・和歌・注は除外/内包)。所在地(郡村区・社寺)を付して集成。