恋ヶ窪の地口行燈に残る江戸の名吟
どんな伝承か
一つ葉松の下の牛頭天王の祠には、最近の祭の諸道具が雑然と立てかけてあり、地口行燈のまだ破れないものが二三本混じっていた。覗き込んで読むと、雀が振袖を着て釣鐘を見ているのが「雀道成寺」で、その隣には翁の面をかぶった人に右手に扇子、左に茄子を持たせて「なすはおきなのたつみ風」と題してある。これは江戸でも名吟に数えられた「きのふきた風けふみなみ風あすはうき名のたつみかぜ」という歌のもじりであった。品川あたりの海の見える色町で歌われたものらしいが、それがどうしてこんな野中の村の地口行燈に残っていたのか、まさしく江戸文化の破片だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第3巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第3巻』は、柳田国男の紀行・日記・随筆を集めた著作集の一巻である。相模・武蔵の村々を歩いた「水曜手帖」、昭和二十三年八月の自序を持つ「北国紀行」、明治四十三年の「五十年前の伊豆日記」、国際聯盟の委任統治委員会に勤めた大正十一年の「瑞西日記」と「ジュネーブの思ひ出 その他」を収める。後半の「菅江真澄」は昭和十七年二月の序を付け、真澄の著述と旅の跡を年を追ってたどり、写真解説を添える。