父と山に住んだ火なき少年
どんな伝承か
瀬戸の感化院にいたもう一人の少年は、丸三年のあいだ父親と二人きりで深い山に住んでいた。その間いっさい火を使わず、食べ物はすべて生のままだったという。小さな弓で鳥や魚を射る術を父から習い、春は木の芽を摘み、冬は草の根を掘って食べたが、味のよいものもあって食べ物に不自由はなかった。寒くなれば小さな獣の皮に木の葉を綴って着た。ただ冬の雨や雪の日だけは、岩の窪みや大木の洞に隠れても火がないため辛く、川岸の細い根の多いカワヤナギの類を抜いて洗い、寄せ集めて布団の代わりにしたと語った。どうして山を出たのかは伝わらず、著者は父も中年から山に入った者だろうと推している。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。