日向南那珂の白髪の老翁(二度の遭遇)
どんな伝承か
日向南那珂郡の身上千蔵の祖父が四十年ほど前に山で不思議な老人に出会った。白髪で腰から上は裸、腰に帆布のような物を巻き、にこにこ笑いながら向かって来る様子が普通の人間とは思えず、小刀の柄に手を掛けて近づけば打つぞと怒鳴ったが、老人は構わず笑いながら寄って来るので恐ろしくなって逃げ帰った。一月ほど後、同じ山で村の若者が同じ老人に会った。雉に鉄砲の狙いを定めた瞬間、横から右腕を柔らかく叩く者があり、振り向くとその白髪の老人が笑って立っていた。白髪の端には木の葉が付いていたという。若者は気が遠くなり、鉄砲を構えたまま立ちすくんでいるところを村人に見つけられた。柳田は二度の実見の一致を重く見ている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。