顔の変わらぬ若僧と狸寺の住職
どんな伝承か
富士の南麓の杉田村にある禅寺安養寺は、狸寺とも呼ばれる。戦国の頃、名僧秀睦の寺に西国から美しい若僧が修行に来たが、寺の番犬に吠えられるたびに慌てて逃げ回り、やがて去った。十年後、犬も秀睦も死んで空き寺になったところへ若僧が戻り、村人に請われて住職となる。だが煙草の火を嫌い、夜に灯も持たず歩き、顔が昔のままなので狐か狸かと噂された。遠い檀家の法事の帰り、駕籠から垂れた太い尾に村の犬が噛みつくと、甲高い叫びが谷に響き、和尚は寝込んで十日目に死んだ。その亡骸は十数年前に死んだ秀睦の姿だったという。
原典より
なんと奇怪なことに、和尙のなきがらは十数年前に死んだ秀睦和尙であったという。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。