渦巻を抱く鳴山と南国の漂着物
どんな伝承か
東浪見には鳴山と呼ばれる山があり、常に雷が鳴るような声を出しているという。「房総志料」はその声は風のごとく雷のごとくだが緩急がないから潮には関係のない鳴りであろうといい、「房総一覧志」の著者は、この山の直下を通ったけれどもその声は聞き得なかったと記している。里老は、鳴山の下にはかつての上総の鳴る海が埋まっているのだと説く。古伝によれば、太古の大東崎は今よりはるかに危険な場所で、乱礁の間に恐ろしい渦巻があり、巻き込まれて海底深く呑み込まれた者は再び浮かんではこられなかったという。その渦巻のあった場所が今の鳴山の真下に移ってしまったのだと土地の人は言い、それで山が鳴るのだと伝えられている。
原典より
東浪見の其、其、に、鳴山と呼ばれる山があつて、常に、雷の鳴るやうな聲を出してゐる。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。