酒を買いに来る宝光社の天狗
どんな伝承か
長野市上千歳町で酒造業を営んでいた菊屋山崎家の娘であった祖母が、十五歳で嫁ぐ前、まだ店が全盛だったころの出来事だという。戸隠に秋葉山をまつる宝光社という、火伏せで名高い社があり、そこの岸本という宿坊に神通力を持つ天狗が棲んでいて、菊屋へ酒を買いに来ていた。この天狗はどれだけ酒を飲んでも少しも酔わず、持参した小さな瓢箪はどれだけ酒を注いでも溢れることなく何升でも入ってしまうという不思議な力を持っていた。番頭も小僧も恐ろしさのあまり、入るだけ酒を注いでやったところ、天狗はそのお礼にと火伏せの神をまつり呪文を唱えてくれ、その後この店は不思議と火事にならなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。