弥山川で見た狼と鉄砲水に沈んだ狼
どんな伝承か
筆者が日本山岳会の日高会長と大峰の弥山小屋に雨で足止めされた折、小屋の主で天川村の梶本貫一老人から獣の話を聞いた。老人が五十五年ほど前、弥山川のヒノ谷のあたりで植林の仕事をしていると、米のとぎ汁を飲みに来た狼を飯場の戸の隙間から見たという。また六十年ほど前には、北角から少し入ったエボシ岩の上で、筏流しの鉄砲水に沈んでいた狼を村人の西岡梅吉が引き上げるのを見た。耳から口にかけて毛がなく、口も牙も犬と変わらず、毛は灰色で尾が長く、重さは三貫目ほどだったと語っている。
原典より
佐々木君(※佐々木喜善)幼き頃、祖父と二人にて山より歸りしに、村に近き谷川の岸の上に、大なる鹿の倒れてあるを見たり。—— 現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。