月夜に聞いた木を伐る音
どんな伝承か
奈良県吉野郡の天川村では、昔から山でゴチゴチと木を伐る音がよく聞こえた。月の明るいある晩、外へ出て耳を澄ませていると、その伐る音に続いてカンカンと矢を打ち込む音がし、やがて木の倒れる響きがした。月夜だったので、倒れるさまが目にも見えたという。妙なことがあるものだと思い、翌日その場所まで確かめに行ったが、木が伐られた跡は何一つ残っていなかった。天狗の仕業とされる天狗倒しの一例である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・1986年(昭和61年))
『暮しの中の妖怪たち』は、岩井宏實が昭和六十一年に著した妖怪の概説書である。鬼・天狗・河童から山姥、産女、雪女、怪火、ザシキワラシ、化け猫、狐狸、幽霊まで、各地の伝承や古典・絵画に見える妖怪を一つずつ取り上げ、その姿と仕業を説く。第I章で個々の妖怪を紹介し、第II章で妖怪の性格、出現の空間と時、正体を論じ、巻末に著者が資料とした妖怪の本の一覧とあとがきを置く。