墓参で聞こえた硬貨の音
どんな伝承か
一九九一年三月二十一日、西多摩霊園へ墓参に行ったときのこと。孫の耕が数珠を手に両手を合わせ、曽祖父母と亡くなった叔母に自分の名を告げて祈った。すると耕が、チャリンチャリンと音がしたね、と言う。夫にも硬貨の転がるような音が五、六回聞こえたが、語り手には聞こえなかった。彼岸の中日の午後三時近くで、あたりに人影はなかった。帰り道、背負われた耕は、教えたこともない実家の姓を織り込んで「にしもとの黄桜」と繰り返し歌った。黄桜は亡父の好んだ酒である。写真には輪のようなものが写っていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考(立風書房)第十二巻・1996年(平成8年))
『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』は、松谷みよ子が一九九六年にまとめた現代民話の資料集で、同シリーズの第十二巻にあたる。雑誌での呼びかけやアンケート、聞き書きで寄せられた話と新聞・雑誌の記事を、心霊写真をめぐる怪異と、明治以降の電信・汽車・電気燈などの新しい文物や流行病に戸惑う人々の話に分けて収める。話例ごとに本文を掲げて各地の類話を分布として並べ、話者や回答者の名と出典を添える。