おいらん渕で顔が写らなかった写真
どんな伝承か
一九六〇年代のこと、話者の望月新三郎さんは漫画家の八木義之助らと酒を背負い、奥多摩から塩山へ向けて山を縦走して、おいらん渕に立ち寄った。望月さんは面白半分に崖をずるずると渕まで下り、這い上がってくるところを仲間のカメラ好きたちが次々に写した。上りきるとズボンがびりびりに裂けていたが、そこには木など一本もなく、石ばかりの崖だった。現像すると、よく晴れていたのにもやもやしたものが写るばかりで、顔はまったく写っていなかった。渕の周りには昔金山があって遊女も多くいたが、閉山のときに何かの理由で遊女たちが投げ込まれた渕だと言われている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考(立風書房)第十二巻・1996年(平成8年))
『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』は、松谷みよ子が一九九六年にまとめた現代民話の資料集で、同シリーズの第十二巻にあたる。雑誌での呼びかけやアンケート、聞き書きで寄せられた話と新聞・雑誌の記事を、心霊写真をめぐる怪異と、明治以降の電信・汽車・電気燈などの新しい文物や流行病に戸惑う人々の話に分けて収める。話例ごとに本文を掲げて各地の類話を分布として並べ、話者や回答者の名と出典を添える。