塹壕に倒れた者を夢に見た老父
どんな伝承か
昭和十三年五月十六日の朝のこと。羽目一つ隔てた向こうに私の父が寝ていたが、ウ、ウーウーと苦しい声を出す。おじい、おじいと呼ぶと、アーア、たまげた、今、もち草が三本あって見えないけれど、マサミツ(孫)だかウタ(私の夫)だかが塹壕の中に倒れているから、見さだめようと思って、もち草を一生懸命ひっぱったが、二つは切れたけれど一つはまだ切れないと言い、布団の〆糸をこんなに伸ばして見せた。六時頃だったが、ちょうど私も夫の夢を見た時刻であった。あとで夫の戦死の公報が来たのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂』は、松谷みよ子が編んだ「現代民話考」の一冊である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』のアンケートへの回答や聞き書き、新聞・雑誌の記事から集めた、予知夢や死の知らせの夢、死者や神仏の夢告げ、死の前後に出る火の玉、生きている人から抜け出す魂の話を各地から収める。三章それぞれの冒頭に編者の論考「考」を置き、項目ごとに代表的な語りと、県別に並べた短い報告を話者・回答者・出典を添えて載せる。