伐ろうとすると妹が泣く杏の巨木
どんな伝承か
語り手の家の屋敷に、杏の大木がある。径一メートル前後の巨木で、甘酸っぱい実の成る珍種はこの地方にはない。樹令は三〇〇年はあるだろう。毎年花を咲かせるが、この二〇年ほど実は成らない。老令のためだろう。戦後の食糧増産期に邪魔になるので、何度か切ろうとしたが、そのたびに亡くなった妹の顔が想い起こされてやめた。妹は六年生の時に亡くなった。子どもの頃、語り手はこの樹に登って妹とよく実をとった。今でもこの木を見るたびに妹を想いだす。妹はいつもにこにこして現われるが、この樹を切ろうかと想うたびに、泣くような顔が想い浮かぶという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考・昭和〜平成)