お産で楠へ移った竜王の主と焼けた山
どんな伝承か
母の知人から聞いた八〇年ほど前の話である。葉山村のむねという字には九軒の農家があり、当時としては珍しく裕福な暮らしをしていた。どこからともなく交代で石臼を借りに来る者があり、貸してやるといつも沢山の米を残していったからだという。農家の近くの谷川のそばには竜王さまと呼ばれ信仰を集めるお宮があった。ある日、その宮から田の稲や草をかき分けるようにして大蛇が通った跡が、アオキという所の楠の下まで続いていた。村人は主が出ていったと早合点して新たな竜王を迎えたが、実は主はお産のために出ていたのだった。山の持ち主が夢枕の頼みを聞かず下から火をつけたため山は焼け、九軒の農家は次々に不幸が起きて絶えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 9 (木霊・蛇)』は、松谷みよ子が全国の回答者から寄せられた報告と各地の民話集をもとに編んだ『現代民話考』の一巻である。明治から平成にかけて語られた、伐ろうとすると祟る木・泣く木・血を流す木などの木霊の話と、大蛇やつちのこ、蛇婿・蛇女房、主や守り神としての蛇、蛇と福運などの話を、話者や回答者の名とともに収める。第一章「木霊」と第二章「蛇」を主題ごとの節に分け、各話例の後に「分布」として類話の地名と出典を並べる。