肥溜めの風呂と馬糞のおやき
どんな伝承か
明治二十九年の秋、舟場の坂井某が村の中へ用事に出かけ、まだ日の高いうちに帰路についた。村の真ん中を流れる小川のあたりで美しい娘が現れ、うちへ寄っていけとしきりに誘う。誘われるままついて行くと、娘は風呂をたて、おやきをこしらえて手厚くもてなした。すっかり満足して時の経つのも忘れていたが、帰りが遅いのを案じた家の者が探しに来ると、坂井某は野原の肥溜めのそばでぼうっと立っていた。風呂だと思ったのは肥溜め、おやきに見えたのは馬の糞だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
八坂村誌 民俗編・民俗編資料
『八坂村誌 民俗編・民俗編資料』の口頭伝承の節から、伝説と昔話を抜き出したものである。長野県大町市八坂(旧北安曇郡八坂村)の大姥山と鷹狩山の山姥・金時の伝え、池の主と大蛇、城跡と長者屋敷、狐・狸・むじな・山犬・天狗・河童の話、社寺の由来、雨乞いの伝えなどを、集落ごとの聞き書きで収める。犀川の谷あいの山村に残る、山と獣と水にまつわる話が中心である。