土間を飛び回った火の魂
どんな伝承か
遠野町役場に勤める某が語った実話である。この人の伯父が大病で長く寝ていたころ、ある夜、某が家の土間に行きかかると、馬舎の口から火の魂がふらふらと入ってきて、土間の中を低くゆるやかに飛び回った。某は怪しんで箒であちこち追い回し、そばにあった盥の下へ追い伏せた。しばらくすると外から人が来て、いま伯父が危篤だからすぐ来てくれと言う。某は慌てて土間に降りたが、ふと火の魂のことに気づき、伏せておいた盥を開けてから出かけた。伯父の家に行くと、病人は一度息を引き取り、たったいま生き返ったところだという。伯父は薄目を開け、いまお前の家で箒に追われ盥を被せられた、苦しかったと言った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。