女の亡霊が立つ土淵の龍ノ森
どんな伝承か
村々には子供が怖れて近寄らぬ場所がある。土淵村の龍ノ森もその一つである。柵に結ばれた大層古い栃の樹が数本あり、根元には鉄の鏃が無数に土へ突き立てられ、多くは赤く錆びついている。森は昼でも暗く薄気味が悪い。中を一筋の小川が流れ、昔この川で岩魚に似た赤い魚を捕った村人が神の祟りを受けたと言い伝える。ここでは蛇の類も殺してはならず、草花も採ってはならない。やむを得ず通るときは栃の樹に向かって拝む。先年死んだ村の女が生前と同じ姿でこの森にいたのを見たという若者があり、南沢の老人は夜更けに森の傍を通って、見知らぬ姿の娘が二人ぼんやり立っているのを見たという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。