念仏の道で突かれた権蔵
どんな伝承か
先年、土淵村の村内で葬式のあった夜のことである。権蔵という男が、村の者四、五人と連れ立って念仏に出かける途中、突然あっと声をあげて、道から傍らの小川へ飛び越えた。皆が驚いてどうしたのかと問うと、いま黒いものに突きのめされた、あれは一体誰だったのだろう、と言う。だが連れ立っていた者たちの目には、そんなものは何ひとつ映っていなかった。姿かたちを持たず、ただ黒い影としか感じられぬものに出くわす話は、この地方にいくつも語り継がれている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。