一日橋で車夫を川へ誘う女の亡霊
どんな伝承か
真夏の深夜、那覇の辻遊廓の近くで客待ちをしていた人力車夫たちのもとへ、色白で美しい中年の女が来て、南風原村まで乗せてほしいと頼んだ。途中の一日橋に幽霊が出ると恐れて誰も応じなかったが、五十がらみの屈強な車夫が引き受けた。国場のあたりですれ違った男は、空の車を重そうにひいて汗だくの車夫をいぶかしみ、後を追った。一日橋に着いた車夫は誰もいない相手に礼を言い、鉢巻きをしめて川へ入ろうとしたので、男は襟首をつかんで尻を蹴り、正気に戻した。もらった車賃は木の葉で、女はハワイで夫に裏切られ、この橋から身を投げた美人の亡霊だったという。
原典より
といって、車夫がふところにしまってある財布から、とり出したのは木の葉っぱであった。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。