足裏に五寸釘を打たれた逆立ち幽霊
どんな伝承か
那覇の崇元寺近くの墓地のほとり、野中にぽつんと立つ一つ墓に、逆立ちして黒髪を垂らした女の幽霊が出ると評判になった。国王の命で、空手の達人嘉味田親方を総大将とする武芸自慢の親方六人と、臆病な文官の池城親方が退治に向かった。茂みに潜んだ一同は藪蚊に追われて一つ墓の庭へ移り、辻遊廓で泡盛を飲んできた武官たちはそこで眠り込んだ。丑満どき、墓の中から冷たい手が池城の襟首をつかみ、触れた武官たちは皆腰を抜かして逃げた。開き直った池城が問うと、幽霊は安里村の宮里の先妻で、後妻を迎えた夫に足裏へ五寸釘を打たれたと訴えた。池城が釘を抜き門の祈禱札を外すと、後妻の子の誕生祝いで賑わう宮里家に入った霊は、夫と赤子の命を奪った。池城は霊が握っていた夫の小さな写真と赤子の髪を取り上げ、写真を夫の胸に置き、髪を赤子の頭になすりつけて二人を生き返らせた。夫が供養を誓って霊は成仏した。のちに三司官まで出世した池城は、崇元寺のあたりで宙に浮く提灯に化けた幽霊に出会い、成仏できた礼を言われたという。
原典より
那覇の崇元寺(そうげんじ)附近の墓地のほとりに、幽霊の出没する一つ墓があつた。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。