護道院の怪僧黒金座主と耳切坊主
どんな伝承か
那覇若狭町の護道院に、黒金座主という色白の好男子の住職がいた。巧みな説教で王族の婦人まで集めたが、実は魔法で信徒を眠らせて懐の金を盗み、美しい女を庫裏へ誘って犯していた。国王の命で空手の達人大城や武芸者三十人が乗り込んだが、ハブに化けたり姿を消したりする怪僧に散々な目にあわされた。首里の大村御殿に住む茶谷王子が碁の相手を装って訪ね、居眠りのふりで隙をうかがい、小鳥に化けて行燈に飛び込んだ怪僧の両耳を宝剣治金丸で切り落とし、喉を刺した。その後、怪僧の幽霊が大村御殿の近くに出るという噂が立ち、王子が雨模様の闇夜に提灯を下げて一人で出向くと、灯がふっと消え、青い人魂が回った先に両耳から血を垂らした幽霊が現れた。王子が袈裟がけに斬りつけると、あたり一面に青い火花が散った。のちに御殿では男児が育たず、生まれると女の子だと触れ回る風習が残り、大村御殿のそばに耳切坊主が立って泣く子の耳を切るぞと歌う子守唄も伝わる。
原典より
怪僧はびっくりして、たちまち小鳥に化けると、行燈の中へ飛んで入った。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。