傘を振り上げて川に落ちた父
どんな伝承か
亘理郡亘理町では、明治三十五、六年ごろまで、狐が化けて人をだますことを村人のほとんどが本当のことと信じていた。だまされるのは祝儀や不祝儀で酒に酔い、土産の食べ物を持っているときで、小雨や雨の暗い夜が多い。狐はたいてい普段よく会う親しい人に化け、暗いのに着物の柄や縞まではっきり見え、声をかけても身ぶりだけで答えないのが妙だったという。語り手の父も暗い夜に友人と行き会い、何度呼んでも返事がないので腹を立て、傘で打とうとしたはずみに川へ落ちて我に返った。土産はすっかりなくなっており、二、三日は気分が悪くて寝込んだ。そこは村境の、よく化かされる場所だったという。
原典より
私の父は暗夜友人に遇い、三、四回言葉をかけたが返事をしないので、怒って傘で殴ろうとした拍子に川にザンプと落ちこんで、はっと正気にかえった。—— 宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
宮城県史 民俗編(茂木徳郎(「妖怪 幽霊」の章)・宮城県史シリーズ)
『宮城県史 民俗編』は宮城県の県史の民俗編で、ここに収めるのは茂木徳郎が執筆した章「妖怪 幽霊」である。山・道・木・水・海・雪・家など出現の場所による分類に沿って妖怪変化を論じ、幽霊とヒトダマ・死霊・生霊の観念を考えたうえで、県内の妖怪・幽霊・動物変化の伝承を郡・町村名を添えて集める。序説・本論・事例篇・参考の順に並び、序説では昭和二十四年の迷信調査と昭和三十年のNHK仙台中央放送局の調査にも触れる。