満十歳同士の駆落ち
どんな伝承か
明治十六年二月、野州栃木万町の按摩某の娘わかは十一歳で、盲目の親が娘だけは人並みに眼を明かせたいと近所の学校へ通わせていた。同じ級に新太郎という十歳あまりの少年があり、わかはいつしか学友の目を忍んで怪しい仲となった。二月十四日、わかは同町の杉山忠蔵方へ留守番を頼まれたのを幸いに新太郎を呼び寄せ、この土地を逃げてお前は丁稚、私は子守として雇われても人目を離れて逢瀬があると誘い、母の臍くり金五円を路費に盗んで来たから今すぐ伴ってほしいと迫った。新太郎もその気になったが、わかの母が怪しい素振りに気づき、無理に二人を我が家へ連れ帰ったという。
原典より
お若が母は怪しき素振にそれと覚り、無理に二人を我家へ伴帰りしとか、急進の少男、過激の少女、汽車も及ばぬ進歩驚くべし。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。