山道で見た猿とクマ鷹の合戦
どんな伝承か
昭和三年十月十二日の朝、山形県最上郡大蔵村の永松鉱山の坑夫、阿部某が北村山郡へ通じる山道にさしかかった。一本の大檜の枝に一匹の大猿が天の一角をにらみ、牙をむいてうめいている。見上げるとクマ鷹が四羽、悠々と輪を描いて飛び、そのうちの一羽は小猿をつかんでいた。檜の根もとには五、六十匹の猿が牙を鳴らして啼き叫んでいる。やがて空のクマ鷹と地上の猿とのあいだに激しい乱闘が始まり、羽ばたきの響きと猿の叫びが入りまじって三時間に及び、ついに猿の側が敗れた。小猿をさらわれた大猿の憤激が発端だったらしい。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。