棚の上で眠る血まみれの鬼婆
どんな伝承か
弘化の初めごろ、南部の雫石に兵五郎という男が身重の妻タケと暮らしていた。兵五郎が町へ用足しに出た留守、戸を叩く音がして鬼婆が上がり込み、腹に子がいるからうまかろうと言うなり、タケの股を裂いて喰い荒らした。鬼婆は口の血を拭うと常居の棚へ上がって寝入る。日暮れに帰った兵五郎は、干大根と思って掴んだものが赤子の腕だと気づき、天井まで血の飛んだ納所で妻の亡骸を見た。血の跡は棚の下で切れている。見上げれば鬼婆が眠っていた。兵五郎は裏から木割りを取ってきて、踏台に乗り、その頭を叩き割ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。