起き上がって追う死人
どんな伝承か
明治のはじめ、南部の金ヶ崎に山本太郎という道化者がいた。町へ行く街道で狐が三匹いるのを見つけ、脅してやろうと足音を立てずに近づき、いきなりワッと叫んだ。狐どもは飛び上がって逃げ、太郎は大笑いして町中に言い触らした。日が落ちて街道にさしかかると急に暗くなり、遠くの灯りを頼りに戸を叩くと白髪の老婆が泊めてくれた。老婆が隣へ行くと言って出たあと火が消え、隅を見ると死人が寝かされ屏風が逆さに立っていた。死人がひょいと起き上がり、笑いながら追ってくるので太郎は裸足で逃げて高い木に登った。夜が明けて柿の実を取ろうとすると枝が折れて落ち、下は川であった。声をかけられて気づくと、そこは狐を脅した街道であった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。