厠の紙灯にのぞいた恋人の姿
どんな伝承か
明治二十七年の春、丹後の舞鶴町の遊廓、朝代町の轡楼に、大阪生まれの小袖という芸妓がいて、若狭小浜の商人と熱愛の仲になっていた。ある夜、中居女が意中の人の姿が見える秘法を知っていると言うので小袖は教わった。不浄の血をつけた紙を雪隠で灯にして下をのぞくのだという。実行した小袖は悲鳴を上げて飛び出し、はっきり見えたが雪駄直しの姿だったと告げた。のち小袖が小浜へ訪ねると、男は皮屋で隙には雪駄直しに出る姿がそのままであり、額には一銭銅貨大の痣ができていた。痛み出したのは小袖が紙灯を落とした晩だったという。
原典より
丁度當夜折よくして、彼女は直ちに實行に取かゝり、燐寸を提げて厠へ入つたが、忽ち悲鳴を上げて飛出し、如何にも明白に見へたが、嫌なことには、雪駄直しの姿をしてゐたと告げて、顔をしかめてゐた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。