ひとりでに弾け返る愛宕山の大松の枝
どんな伝承か
松江の外中原町の西の端にある愛宕神社の丘は大木が茂って昼でも暗く、昔から天狗が跳梁すると言い伝えられていた。男坂の脇に残る大松の第一の枝は、付け根の太さ四尺五寸、長さ五、六間を超える一本の木のような大枝だった。風も雲もない晴れた日、この枝がひとりでに地面すれすれまで垂れ下がり、今にも折れるかと見えたところで猛烈な勢いで跳ね上がる。それが三度、四度と続いた。麓に住む松江藩士吉城家の主人は愛宕の神の信者で、これを見ると家族を縁側に並ばせて大松を拝んだ。風もないのに境内の木が鳴る日には、天狗のお出ましだと言って、月の障りの女がいないか家中に尋ねて回ったという。およそ百年前の話として伝わる。
原典より
風も雲も無い晴天の静かな日に、その大松の第一の枝が、獨りでズル/\地面近くへ垂れ下がるのである。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。