十三歳の筏氏、一つ目の化け物と組み打ち
どんな伝承か
筏氏(茂八郎君であろう、勇力無双の聞こえがあった)が十三歳のときのことである。寺谷の奥に水罠を掛け、明け方に見に行ったところ、岡の方から狸の毛のようなものが生え、目が一つ光る化物が掛かってきた。筏氏は幼年ながら心が剛く、むずと組み付いて上になり下になりし、ついにその変化を組み伏せ、脇差を抜いて刺し通した。そう思ったところで正気を失っていた。宿へ帰りが遅いのを不審に思って行ってみると、水罠の辺りで絶え入っている。水などを飲ませて助け起こすと、半時ばかりしてようやく正気づき、右の次第を語ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。