忌日の禁を破った釣り人の溺死
どんな伝承か
嘉永年頃、二宮某という年二十余りの、美男の称ある人がいた。役場にも出勤し、平生から釣り漁を好んだ。秋の頃であったか、ある月の十九日の夜、川下村の沖へ海鮒を釣りに出かけ、牛野谷村へ渡って石堰の上から川を横切り中津村へ至ろうとしたが、石堰の中程あたりで水勢のために踏み滑って倒れ、石堰のどうどう落ちに流れ込んで溺れ死んだ。雨後で常より水が増していたのである。この十九日は吉川の先君亮功経章公の御忌日で、御忌日には諸士は殺生禁制で遊猟をしない。某は私かに禁を犯したのであった。境三雨が皮肉な狂歌を詠んで残している。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。