止まった電車を動かした発電所雇いの死
どんな伝承か
明治四十三年七月、錦見村の城山招魂社の麓にある発電所の雇人で、今津生まれの松本佐介が電車に乗って転覆し、大負傷して死んだ。先の大雨で発電所の西一丁ばかりの所の軌道が損壊し、鉄道の底の土砂が空洞になっていたので電車は通れず、修繕が始まっていた。この日、今津から来た電車は発電所の辺りで進行を止め、乗客は皆降りて西の方で乗り換えた。止まった電車は空車のまま据えてあった。佐介はこれを見て試しに乗り、コントローラーを手で捻ったところ電車が進み始めた。ブレーキの扱いを知らず、車は西へ走り、軌道の損所で傾いて渠の内に陥落した。佐介も転げ落ちて股に大破傷を負い、十日ほど経て死んだ。年二十四であった。
原典より
明治四十三年七月、錦見村城山招魂社ノ麓ナル発電所ノ雇人、今津生レ松本佐介、電車二乗り転覆シ、大負傷ニテ死ス。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。