雨の山みちに現れた七尺の弁慶
どんな伝承か
義経主従というのである。平泉の山みちを辿っていくと義経館があり、義経は戦いに敗れて蝦夷の地へ逃れたと伝えられている。明治のはじめのある夕ぐれ、中尊寺の僧が山みちを歩いていると、一人の男がオイと声を掛けた。雨の日で姿もよく見えず、酔って気の強くなった寺僧が言い返すと、男はどのような闇の中でも地獄も極楽も見えると言う。闇に目が馴れると、その男の丈は七尺を越していた。男は判官どのを探して極楽にも地獄にも行ったが姿が見当たらぬと言い、寺僧が、義経は平泉から北海道に渡ったと聞いていると答えると、名を問われて、おれは武蔵坊弁慶という不忠者さと言い残し、雨の中に消えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。