石巻線の無人の便所から返った女の声
どんな伝承か
昭和五十九年五月十八日、語り手は石巻線で女川から石巻へ向かった。女川駅でトイレを我慢して午前九時二十分発の汽車に飛び乗り、知人に荷物を預けて車内のトイレを探すと、四両目にようやくあった。戸をたたくと中年らしい女の声ではいっていますと返事があり、外で待つうちに駅を一つ過ぎた。もう一度たたいても返事がないので、近くの乗客に頼んで戸を開けてもらうと、中には誰もおらず、何日も使われていないようなほこりだらけの便所だった。寒気を覚えながら用を済ませて席に戻り知人に話すと、その人も驚いた。語り手は今もあの声が忘れられないという。
原典より
昭和五十九年五月十八日のこと。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。