女房は去年死んだと言う酔った客
どんな伝承か
タクシーの運転手をしている夫が、今日はえらい目に遭ったと言いながら帰宅した。乗ってきた客はかなり酒に酔っていて後部席で寝てしまい、道順を聞くたびに揺り起こすのがひと苦労で、しかも教わった道路は行き止まりだった。通行人に道順を尋ね尋ね走っていると「なぜわしに聞かないのか」と怒鳴られた。ようやく自宅に着くと、ナンバープレートの番号をメモしろ、陸運局へ訴えると言う。奥さんとの対面を願うと、「女房は去年死んでおらん、忘れかけていた女房のことをまた思い出させる気か」と言い、千鳥足で歩き出した。手を貸そうとすると一喝されたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。