勢至堂峠で追いついた死んだはずの男
どんな伝承か
明治のこと。村から仲間三人で伊勢参りに旅立ったが、帰り道で一人が病死した。残る二人は、伊勢参りは一代の晴れの旅だというのに縁起でもないと言い、死人を葬り、このことは他言しない約束で帰りを急いだ。村に近い勢至堂峠にさしかかると、後ろからオーイ、オーイと呼ぶ声がする。振り向くと、死んだはずの男が顔を青白くして追いかけてきた。回り道をして迷い、川が深くて渡れなかったので遅れたのだという。三人で村に帰ったが、その男の様子はおかしく、以後は厩の肥出しや便所汲みなど不浄な仕事を決してしなくなり、他家を訪れてもいつのまにか下駄が外へ向いて直っていた。年老いて男が本当に死に、入棺して夜伽を過ごした翌日、出棺のとき棺の蓋を開けると死体はなく、幣が一本あるだけだったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。