勢至堂峠で追いついた死んだはずの男
どんな伝承か
明治のこと。村から仲間三人で伊勢参りに旅立ったが、帰り道で一人が病死した。残る二人は、伊勢参りは一代の晴れの旅だというのに縁起でもないと言い、死人を葬り、このことは他言しない約束で帰りを急いだ。村に近い勢至堂峠にさしかかると、後ろからオーイ、オーイと呼ぶ声がする。振り向くと、死んだはずの男が顔を青白くして追いかけてきた。回り道をして迷い、川が深くて渡れなかったので遅れたのだという。三人で村に帰ったが、その男の様子はおかしく、以後は厩の肥出しや便所汲みなど不浄な仕事を決してしなくなり、他家を訪れてもいつのまにか下駄が外へ向いて直っていた。年老いて男が本当に死に、入棺して夜伽を過ごした翌日、出棺のとき棺の蓋を開けると死体はなく、幣が一本あるだけだったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』を小話単位で全699話収録。死の知らせ・予兆、あの世(地獄・極楽)へ行った話、死者からのサイン、生まれかわりなど、生死とあの世にまつわる現代の民話を全国から採集し地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明606話・市区町村判明489話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。