大黒柱にすがって泣く死んだ老婆
どんな伝承か
明治三十年代、児玉郡のことという。山手にあった大尽の家が没落して売りに出され、治三郎と坂吉の二人が共同で買い取ることになった。古い家を一軒壊せば、材料で二軒の家が建てられる見込みだった。取り壊しの日、大勢で解体に出かけると、八十歳を越えたと思われる白髪の老婆が、太い大黒柱に取りすがって声を上げて泣いていた。老婆は、わしの住む家がなくなってしまう、どうかこの家を壊すのはやめてくれと繰り返し哀願した。一同は仕事に取りかかることができず、そのまま引き上げた。隣家に様子を尋ねると、そんな格好の婆さんはいたが、もう二十年も前に死んでいると言われ、もう一度行ってみると家はもぬけの殻だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。