要領で不合格を狙った召集検査と呉駅の特務
どんな伝承か
子どもの頃のけがで右目がほとんど見えず、徴兵検査で第二国民兵とされた男に、三十歳を過ぎた昭和十九年十一月の末、海軍の召集が来た。海兵団にいた人から、赤丸が多いほど不合格に近づくと教わった男は、体格検査で左目の視力を実際より低く言い張り、聴力検査でも聞こえないふりをして赤丸をもらい、検査官に「人間のクズ」と罵られて不合格となった。呉駅の待合室では、同じく要領で落ちた男たちが自慢し合っていたが、眠っていたはずの男らが急に立ち上がり、彼らを外へ連れ出した。紛れ込んでいた海軍の特務だったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。