水筒を便器にしてしまった坊ちゃん育ちの兵
どんな伝承か
昭和十七年頃、甲府東部第六十三部隊に初年兵二十人が入隊し、内務班の古年次兵からいびられ、猛烈な教練にくたくたになった。全員学校出の初年兵に対し、幹部候補生になれば階級が上になる者へは古年次兵がことさら辛く当たった。訓練中に大学出の兵が立木に抱きついて泣き出す者もいた。お坊ちゃん育ちの同年兵は軍隊の要領になじめず、たちまち悪戯の対象にされ、寝小便がひどくなった。ある朝、非常呼集で水筒に小便が入っていたことが露見し、以後は不寝番が一定時刻に彼を起こして便所へ通わせる決まりになった。それでも間に合わず、彼はついに病人扱いされ、呆けたまま野戦へ送られたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。