棚杖を抜かれた歩哨が沈む弾薬庫の池
どんな伝承か
昭和十七年に甲府連隊へ入隊した語り手が、古年兵から聞いた話。甲府四十九連隊の兵営の奥には弾薬庫があり、そこの夜の歩哨は皆に嫌われていた。巡回路の途中に池があり、夜更けにその池の中から棚杖とうめく声が聞こえるからである。初年兵の訓練を終えたばかりの兵が初めてその歩哨に立った晩、昼の疲れで立ったまま居眠りをした。見回りに来た週番士官は懲らしめのため、銃から棚杖を抜いて持ち去った。目を覚まして棚杖がないと気づいた兵は、天皇から授かった兵器は命より大事と教えられていたため、追い詰められて池に身を投げた。以来毎晩、池の底から棚杖を探し求める声がするという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。