便所から袴くれと呼ぶ兵の声
どんな伝承か
昭和十年ごろ、和歌山歩兵第六十一連隊での話。衛兵を命じられた者は、夜の巡察で一番離れた兵舎の便所を見回るのを怖がった。その便所の戸の内側から、袴くれ、袴くれという声がするからである。かつて袴、つまりズボンをなくした兵が、上官に叱られるのを恐れてこの便所で首をつったのだという。噂が広まったため、隊ではその便所に袴を置いてやった。すると声はぴたりとしなくなったという。
原典より
○愛知県、名古屋歩兵第六連隊補充隊。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。