窓から投げられた汚い判こ
どんな伝承か
弘前で軍隊にいた男が語った月給日の光景である。給与は十日ごとに渡され、「月給をやるから一列に並べ」と号令がかかった。手渡す係の曹長は、わざわざ外の窓を開けて構えている。名を告げて判こを差し出すと、汚れた判こは見るなり窓の外へ放り投げられ、「おい、次」と押しやられた。窓を開けていたのはそのためだった。放られた判こを拾ってきた者は列の最後尾に並び直すしかなく、順番を告げても「今ごろ何だ」と嫌みを言われる。順序などあってないようなものだったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。