消灯ラッパと酒保に流れた涙の渡り鳥
どんな伝承か
高知の歩兵第四十四連隊にいた人の回想である。一等兵に上がって襟の星が二つになると、ようやく人並みになった気がした。そのころは毎日、三八銃を担いで営庭を四角く行進する練習が続き、白線を踏み、腿を直角に上げ、歩幅七十五センチを正確に刻めと鍛えられ、手すりなしでは階段も上れないほどだった。型にはめる教育の中で、月や花を見ては涙ぐみ、消灯ラッパは「また寝て泣くのか」と聞こえた。酒保には夕方から「涙の渡り鳥」が大音量で流れ、入浴の帰りにまんじゅうや煙草を買って一日の疲れを癒したという。
原典より
昭和十九年頃、マニラに上陸して競馬場の柵の中に宿営したが風呂がない。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。