滝のほとりで血を滴らせた片骨
どんな伝承か
「谷の響」三之巻「圧死」の、安政三年七月六日の条である。花輪村の万次郎が仲間四、五人と赤倉の沢へ雪を取りに出かけた。道連れは途中で五、六十人にも増えた。雪を取りはじめると、潮の響きのように山中が鳴り動いたので、これは雪崩だと逃げたが、万次郎の姿だけが見えない。翌七日、八日と探しても屍骸は見つからなかった。ただ谷の半ばに滝があり、その滝のほとりに、まだ生々しい骨の砕けた片が少しばかり落ちていた。皆で尋ねあぐね、この骨ではあるまいかと花輪の者が洗って実父に見せたところ、手に取るや、片骨のひび穴から鮮血が滴り出たので、本人の骨と断じたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。