鳥海山で飛んできた伐りたての木
どんな伝承か
小館某の次男が友人五、六人と筍を取ろうと、嶽から岩木山の右峰、鳥海山のほうへ登った。道に迷ううちに平らな地に出ると、傍らの谷には篠竹が生い茂り、これはよい場所だと笹藪に入って、わずかの間に多くの筍を得た。昼飯にしようと平地で休んでいると、囲み一尺余りから三、四尺もある、伐りたてに見える木がどこからともなく飛んできて、礫のように頭上一尺ほどを掠め、足下に落ちた。長さ七、八尺のものは落ちる勢いで二つ三つに折れた。人影もなく木を伐る音も聞こえない。恐れて立ち退くと雷が轟いて大雨となり、硫黄岱の上でも風に吹き飛ばされそうになった。本湯まで下ると風雨はようやく和らいだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。